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ヒロシマから被爆樹木の平和の音色を世界にとどけるメッセンジャー

千田パンフルート合唱隊

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2022年5月、緊急平和発信のイベント

「音楽は、言葉や国境を越えることができます」

「これから、被爆地・ヒロシマより、被爆樹木パンフルートの演奏と歌で、平和を祈り、いのちの尊さを伝える演奏をいたします。1日も早く、希望のある、平和な世界がくることをねがっています」

2022年5月7日、広島市中区東千田町のイベント施設で、平和発信のイベントが行われました。2月にロシアによるウクライナ侵攻が始まり、世界中の緊張が高まるなか、「いま、自分たちにできることを」と声をあげたのが、地元の小中学生がメンバーの千田パンフルート合唱隊です。

 

おそろいの緑のバンダナの衣装で、手に持つのは木製のパンフルート。パンフルートは、息を吹きこむと、森をわたる風のようなやさしい音色がひびく木管楽器です。千田小学校の校庭で子どもたちを見守りつづけてきた被爆樹木・カイヅカイブキのいのちを受け継いでつくられました。千田パンフルート合唱隊は、代表・島本裕充先生の指導で、2014年より、このパンフルート演奏をとりいれ、「いのち・夢・希望」をテーマにヒロシマから平和のメッセージを発信してきました。

​私が被爆樹木のことを知ったのも、千田パンフルート合唱隊のみなさんとの出会いがはじまりでした。「平和の音色」に心ひかれながらも、コロナ禍中では訪問が叶わず、生演奏の場におじゃましたのはこの日が初めて。今回、当時のレポートをふりかえりながら、いただいたメッセージをご紹介します。

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平和を訴えるプログラム

最初の挨拶では、1945年8月6日広島に原子爆弾が投下された史実と、千田小学校の被爆樹木からパンフルートが生まれた経緯が語られました。冒頭のメッセージを挟むこの日のプログラムは、「千田小学校校歌」「Wings To Fly」「いのちのうた」「アメイジング・グレイス」など7曲。まっすぐな歌声とパンフルートが、ガラス張りの明るい会場いっぱいにひろがります。11月の平和文化月間に向けて練習を重ねてきたという映画『この世界の片隅に』の主題歌「悲しくてやりきれない」も初めて披露されました。リフレインがつづくやさしい音色が心に沁みこみ、いつまでも余韻にひたっていたくなるようでした。

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名残りを惜しむように、最後に演奏されたのは「アオギリのうた」。千田小学校卒業生・森光七彩さんによる作詞・作曲で、もうひとつの校歌のように歌いつがれている曲です(広島市ホームページでも紹介されています)。「ヒロシマのねがいはただひとつ せかい中のみんなの明るい笑顔」。希望を伝える明るいメロディーにのせて、のびやかに力強く、平和のメッセージがひびきました。

 

プログラム終了後、アンコールを受けて「いつまでも伝えたい」の合唱が続きました。けれども、拍手が鳴りやみません。そこで即興演奏されたのは「それ行けカープ」。観客の手拍子も加わって一体となり、元気な歌声が満ちて、会場には笑顔とあたたかい空気があふれました。

 

子どもたちの歌声と、楽器になった被爆樹木の音色が組み合わさり、ヒロシマからのメッセージがひろがっていく。その平和の音楽が、人々の心をあたたかくつないでいく――奇跡のようなその瞬間を、ぜひ、ひとりでも多くの方に味わっていただきたいと思います。

初代代表・島本裕充先生インタビュー

島本裕充先生は、2011年に千田小学校に音楽教諭として赴任後に「千田小学校合唱隊」を立ち上げ、長く指揮・指導をされてきました。2020年には、千田小学校以外・中学生以上の方も隊員になれるよう、地元に根ざした団体として「千田パンフルート合唱隊」という名前に改めて参加枠をひろげ、合唱隊をサポートされています。

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ーーそれまでは「卒業演奏会」など恒例行事や、「水辺の合唱フェスティバル」「平和と美術と音楽と」などのイベントに参加することが多かったところ、2022年5月の平和発信は、中学生の隊員さんからの自発的な提案で実現したそうですね。このときのメッセージや楽曲プログラムは、どのように生まれたのですか?

 

いつもはイベントの主催者と相談して、その趣旨に合うように内容を決めていました。ところが、ロシアによるウクライナ侵攻があり、その報道を目の当たりにした当時の中学生隊員から、「こういうときこそ、ぼくらが発信せにゃいけんのとちがうん!?」という声があがりました。今まで続けてきた平和のメッセージを、自分たちがいまこそ、自らの手で発信したいという思いがわいてきたようです。

 

そこで私は、隊員たちの思いをまとめて企画書を作り、会場を手配しました。楽曲の選定も、隊員たちが中心となって選んだものです。「いまの自分たちにできる平和への願いを伝えよう!」を心に留め、直接ロシアやウクライナという名称は出さないことにしました。戦争や紛争で苦しんでいる人々は、ロシアとウクライナだけではないという考えに至ったからです。その結果、「1日も早く、安心して暮らせる“平和”が世界に訪れますように」をメインテーマにして、開催のはこびとなりました。

ーー合唱隊のみなさんにとっても、初めてのチャレンジだったのですね。そして2023年には、コロナ禍での活動の危機ものりこえて「国際青少年音楽祭」への海外遠征も果たされました。EU・ジャパンフェスト日本委員会の派遣プログラムで、セルビア共和国とルーマニアを訪問し、現地では「平和の使者」として大歓迎を受けられたとのこと、とくに心にのこっていることを、おしえていただけますか?

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さまざまな方々のご尽力とご協力で、欧州文化首都セルビア共和国ノヴィ・サドとルーマニアのティミショアラを訪問させていただきました。このなかでいちばん強く感じたことは「直接交流の重要性」です。コロナ禍により、リモートでの対話や交流が多用されるようになってきましたが、音楽はその場で、リアルタイムで、全身の五感を使って感じるものです。練習やリハーサル、そして交流時に演奏した音楽、会場の熱気、すべてが五感を刺激するものであり、隊員たちにとってはどれだけ貴重な体験となったかと思います。

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また、現地の人々の思いやりと優しさに直に触れたことも、忘れがたく心にのこっています。隊員たちは到着後、現地の環境に適応しきれず、次々と高熱を出しました。幸い重篤な感染症ではなかったものの、受け入れ校やホームステイ先や事務局の方々に多大なるご迷惑をおかけしました。それにもかかわらず、思いやりとやさしさにあふれた対応をして頂きました。もし逆に、迎え入れる立場だったら、このような誠意ある対応ができただろうかと、いまも感謝の思いが消えません。

 

そして、「平和のメッセンジャー」として広島からやってきた私たちが歓迎されたことには、戦時下のウクライナと陸続きに隣り合う国の人々にとって、切実な願いもこめられていたのでしょう。その思いと期待にこたえて、体調不良ものりこえ、無事に公演日程を果たせたことは、隊員一人ひとりにとって大きな自信になったようです。出発時と帰国時の表情の違いにも、明らかな成長として表れていました。こうした成果は、「直接交流」ならではのもので、オンラインでの交流ではけっして得られなかったでしょう。

――広島から世界へ、成長をかさねて着実に活躍の場をひろげていく隊員のみなさんが頼もしいですね。発足当初からこれまで一貫して「平和の発信」を活動のテーマにされたのは、何がきっかけだったのでしょうか? また、これまでの活動で大切にしてこられたことがありましたら、おしえてください。

赴任する前までは吹奏楽の指導をしていたので、千田小学校でも吹奏楽を続けるつもりでした。でも、千田小の子どもたちの歌声を初めて聴いたとき、この素直で澄んだ歌声をのこしたいと思いました。「アオギリのうた」がきっかけでした。2001年に広島の歌グランプリに選ばれたこの曲には、ヒロシマの平和のテーマがこめられていて、ハ長調だと落ち着いた曲にきこえますが、千田小の子どもたちがニ長調でうたうと、とても明るくひびきます。そこで、「平和の発信」をテーマにしながらも、音楽本来の楽しさ、よろこびを伝えることを大切にしようと思いました。

 

指導のときも、「平和」についてはあえて語らずに、「目の前にいるお客さんに対して、最高のパフォーマンスを届けるにはどうしたらいいか、いっしょに考えよう」という姿勢で、ずっと続けてきました。そして、2022年の平和発信で、隊員たちはみずから行動を起こしました。海外遠征でも大役を果たして、成長を続けています。これからも、「ヒロシマの平和のメッセンジャー」として、それぞれが考え、行動を起こしていってくれることを確信しています。

――合唱隊の発足も平和発信も、「アオギリのうた」がきっかけになったのですね。校内に被爆樹木がたくさんあり、被爆樹木のパンフルート演奏を取り入れてご活躍の場をひろげていらっしゃることも、必然と感じました。卒業後も長く活動されている隊員さんたちの楽しそうなご様子からも、「平和発信」という使命感だけでなく、音楽本来の楽しさと喜びが、しっかりと受け継がれていることがうかがわれます。これからも、明るい歌声と被爆樹木の音色で、世界中に平和のメッセージを広くとどけていただけますように。島本先生、ありがとうございました。

新体制の千田パンフルート合唱隊のみなさんよりメッセージ

島本先生はバトンを渡して勇退され、2024年現在の千田パンフルート合唱隊は新体制のもと、小学生6名・中学生3名・高校生4名・社会人1名の14名で活動されています。新たに指導を引き継がれた福田順先生と、隊員のみなさんより、メッセージをいただきました。

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福田順先生

「終戦80年を迎えます。過去の過ちを繰り返しませんと誓った私たちは、改めて戦争、平和について考えています。被爆樹木から作られたパンフルートの音色と歌声で、争いのない世界の実現をめざして、これからもいっそう平和のMessageを発信し続けていきたいです」

​隊員代表として6年生の石原優香さん

「Buna ziua(ルーマニア語で「こんにちは」) みなさんお元気ですか。早くみなさんにお会いしたいです。広島はすごく楽しいところなので、ぜひ広島に来てください」

もっと知りたい方へ

千田小学校の被爆樹木と千田パンフルート合唱隊をモデルにした絵本があります。

広島県の特設サイト「国際平和拠点ひろしま」で絵本と演奏動画が紹介されています。​​​​​​

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最新の情報を知りたい、合唱隊に入りたい、活動を応援したい、とご興味をお持ちになった方は、下記をご覧下さい。

 

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       「被爆樹木・カイヅカイブキのパンフルートができるまで」の動画も公開されています

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(​画像はすべて千田パンフルート合唱隊提供)

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